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Journal — N-BRIDGE BLOGAX(業務のAI移譲)

どの業務からAIを入れるか。中小企業がつまずかないAI導入の順番の決め方

2026.08.04

AIを導入したいが、どの業務から手を付ければいいのか分からない。
中小企業の経営者や現場の責任者から、そうした相談を受けることが増えました。

結論を先に書きます。
最初にAIを入れる業務は、効果が大きそうな業務ではなく、仕事に使う知識がすでに文書になっている業務から選ぶのが確実です。

規程や手順書が揃っている業務なら、AIは短期間で動き始めます。
一方、ベテランの頭の中にしか知識がない業務では、AIを動かす前に、その知識を言葉にして取り出す工程が必要になります。
この工程はAI導入の中で最も重く、ここから始めると成果が見える前に止まりやすいのです。

この記事では、順番を決めるための2つの軸と、筆者が3つの部門への導入を設計したときに実際に使った順番を紹介します。

「どこから始めるか」で止まる中小企業は多い

朝の光が差し込む、始業前の小さなオフィス

中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した中小企業のAI等の利活用に係る実態調査によると、AIを導入している中小企業は20.4%でした。
検討中を含めても39.0%にとどまります。

導入が進まない背景も、この調査から読み取れます。
不足している情報として最も多く挙がったのは、ツールの性能や価格ではなく成功事例・活用事例の情報で、83.3%にのぼりました。
多くの会社は、AIを使うかどうか以前に、どこからどう使い始めるかの手がかりがなくて止まっていると考えられます。

会社としての取り組みに進めていない状況は、国の調査にも表れています。
総務省の令和8年版情報通信白書では、生成AIによる業務変革について組織的な取組はないと答えた日本企業が27.0%ありました。
米国の7.4%、ドイツの2.6%と比べると、差は歴然です。
個人がAIを試す段階から、会社として業務に組み込む段階へ進むには、まず「どの業務から入れるか」を決める必要があります。

AI導入の順番を決める2つの軸

上空から見下ろした交差点。2本の道が直角に交わる

AIを入れる順番は、2つの軸で業務を置き分けると決めやすくなります。

軸1:その業務で削れる時間の大きさ

1つめの軸は、AIが入ったときの効果です。
見積の作成に毎回半日かかっている、問い合わせ対応に人が付きっきりになっている、といった業務は効果の大きい業務です。
多くの会社はこの軸だけで考え、一番重い業務から手を付けようとします。

軸2:知識がどれだけ文書になっているか

2つめの軸は、その業務で使う知識が文書として残っているかどうかです。
就業規則、経費規程、申請フロー、作業手順書。
こうした文書が揃っている業務では、「この場合はどうするか」に根拠つきで答えるAIを短期間で用意できます。
反対に、知識が特定の人の頭の中にしかない業務では、AIを動かすより先に、知識を聞き取って言葉にする工程が必要です。

効果の軸だけで選ぶと、一番重い業務に当たる

効果の大きい業務ほど、ベテランの判断に頼っている場合が多く、知識は文書になっていません。
つまり効果だけで選ぶと、知識の取り出しという一番重い工程から始めることになります。
そうなると成果が見える前に時間が過ぎ、「AIはうちには合わなかった」という結論だけが残りやすくなります。

先に手を付けるべきは、文書がすでにある業務です。
効果は中くらいでも、動き出しが速く、うまくいかなかったときの傷も浅いからです。

前掲の中小機構の調査には、これを裏づけるデータがあります。
AI導入済みの企業が活用している部門は、総務・管理部門が68.3%で最多でした。
営業・販売・サービス部門の60.3%がこれに続き、製造・生産部門は34.9%です。
規程や定型文書が揃っている管理部門が入口になりやすいことは、実際の導入状況にも表れています。

3つの部門に入れるとした場合の実例

印刷の現場で、刷り上がった紙を手に取って確かめる

筆者は、外部で支援しているある印刷業の現場で、管理・制作・営業の3部門へのAI導入を設計しました。
そのとき決めた順番は、管理、制作、営業です。
どの部門も「仕組みは同じで、溜める中身が違うだけ」という共通の設計にしたうえで、着手の順番だけを変えています。

最初は管理部門。文書がすでにあるから

管理部門には、就業規則や経費規程、申請フローといった文書がすでにあります。
だから「この場合の稟議はどう回すか」に、規程を根拠にして答えるAIを最初に用意できます。
総務に聞きに行く手間が減るという変化は小さく見えますが、この段階の役割は効率化そのものではありません。
「仕組みが実際に動く」という事実を、全社に最も早く見せられる場所なのです。

次に制作部門。日々の判断を資産に変える

制作部門では、ベテランの修正指摘をデータベースに蓄積し、若手の質問に対して、過去の指摘を根拠にAIが7割ほどの水準まで答える仕組みを設計しました。
残り3割の仕上げはベテランが行い、その指摘がまたデータベースに戻っていきます。
知識を改めて書き出してもらうのではなく、日々の指摘という既存の仕事を材料にするところが肝心です。
ベテランに「持っている知識を文書にしてほしい」と頼む進め方は、負担が大きく、ほとんどの場合続きません。

最後に営業部門。暗黙知が一番濃いから

この現場で効果が最も大きいのは、実は営業の見積でした。
「あの人にしか組めない」という属人化が一番濃く、担当者が不在だと仕事が止まる業務だったからです。
それでも最初に手を付けなかったのは、見積の知識のほとんどが文書になっておらず、取り出す工程が3部門の中で最も重いためです。
管理と制作で仕組みが回った実績を作ってから、最後に取りかかる計画にしました。

ベテランの知識をどう取り出すかという工程そのものについては、ベテランの暗黙知をAIで引き出す。属人化解消を進める順序と落とし穴で詳しく書いています。

最初の一部門の成功が、次の部門を動かす

白い壁にメモを貼る手。小さな一歩を積み重ねる

軽い業務から入る順番のねらいは、技術的な難易度の調整だけではありません。
社内の信頼を積み上げることにあります。

AI導入が止まる原因は、技術よりも「本当に役に立つのか」という社内の空気にあることが多いと感じています。
最初の部門で「聞けば根拠つきで答えが返ってくる」「探す時間が減った」という事実ができると、次の部門を説得する材料を別に用意する必要がなくなります。

筆者自身、自社では営業案件の管理と、このブログを含むコンテンツ制作からAIの業務活用を始めました。
どちらも、商談の記録や記事の下書きといった、すでに文字になっているものを材料にできる業務だったからです。
部門の構成や業種が違っても、文書がある業務から入るという原則は変わりません。

少人数の会社がAIに業務を任せていく始め方は、なぜ中小企業こそAIエージェントに業務を任せるべきかでも書いています。

まとめ:順番を決めれば、AI導入は前に進む

整理されたファイルが並ぶ棚

この記事の要点をまとめます。

AIを入れる順番は、効果の大きさではなく、知識が文書になっている度合いで決めます。
入口になるのは規程や手順書が揃っている業務で、多くの会社では管理部門がこれにあたります。
そこで「仕組みが動く」という事実を作り、日々の判断が残る現場の業務に進み、暗黙知の濃い業務は最後に回します。

効果の大きい業務を後回しにするのは、遠回りに見えるかもしれません。
ただ、一番重い業務から始めて止まってしまえば、効果はゼロのままです。
軽い業務で作った実績と社内の信頼が、結果として一番重い業務への最短ルートになります。

自社の場合はどの業務が入口になるのか。
それを確かめたい方は、3分でわかるAI活用診断をご利用ください。
導入の順番の設計から伴走する支援は、コンサルティングでご案内しています。


執筆:永松裕章(N-BRIDGE株式会社 代表取締役)
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