メインコンテンツへスキップ

Journal — N-BRIDGE BLOG| 生成AI業務活用

契約書のチェックにAIをどう使うか。読ませ方と検算で決まる精度。

2026.10.12

「この契約書、問題ないか見ておいて。」

取引先から契約書の案が届いたとき、社内にこう頼める相手がいない。
中小企業では珍しくない状況です。

先に結論を書きます。

  • 契約書や社内規程のチェックにAIは使えます。ただし任せられるのは「見落としの候補を出す」ところまでです
  • 精度を決めるのは、AIの性能よりも読ませ方と検算のさせ方です
  • 確定の判断は人が行い、金額の大きい契約や争いがからむ契約は弁護士に確認します

筆者(永松裕章)は大阪でAI活用支援の会社を経営しています。
自社の契約書ドラフトづくりにAIを使っているほか、外部で関与しているある現場では、取引条件の交渉にあたって契約書案のAIレビューを実際に行いました。

この記事では、そこで分かった読ませ方のコツと、失敗から学んだ落とし穴を順に説明します。

AIにできるのは「下読み」まで。確定は人の仕事です。

無地の紙と万年筆が置かれた木の机を上から見た様子

まず、役割の線引きから整理します。

AIが得意なのは、次のような作業です。

  • 長い契約書を条文ごとに整理して、何が書いてあるかを平易な言葉で説明する
  • 自社に不利になりうる条文の候補を挙げる
  • 金額・期日・期間など、数字の食い違いを探す
  • 社内の資料と突き合わせて、決めた条件が反映されているかを確かめる

逆に、AIに任せてはいけないのが確定の判断です。

「この条文を受け入れてよいか」は、取引の背景や相手との関係で答えが変わります。
そこはAIには見えません。

つまりAIの仕事は、人が判断するための材料を、漏れなく机に並べることです。
書かせるより確かめさせるほうがAIは堅実に働く、という感触は提案書のレビューで書いたことと同じです。

この前提で使うと、契約書のチェックは目に見えて楽になります。

① 読ませ方。丸ごと渡して「問題ない?」と聞かない。

机で書類を並べて見比べている二人

一番よくある失敗は、契約書を丸ごと渡して「問題ないか見て」と聞くことです。

この聞き方だと、AIはどんな契約書にも当てはまる一般論のチェックリストを返してきます。
間違ってはいないけれど、自社の状況に沿っていない。
読んでも判断が進みません。

筆者が外部の現場で契約書案をレビューしたときは、次の手順にしました。

① 論点を先に人が書き出す

譲れない条件、確認したい点、相手と合意したはずの内容を、表の形で先に整理します。
ここは人の仕事です。
きれいな表でなくて構いません。

② 契約書案と論点の表を一緒に渡す

そのうえでAIには「論点ごとに、該当する条文はどれか。案文は自社と相手のどちらに有利か。合意した内容と違う点はないか」を整理させます。

③ 挙がった指摘を人が確かめる

AIの指摘を一つずつ条文の原文と照らして、対応が要るものを選びます。

丸ごと渡したときと比べて、返ってくる指摘が自社の論点に沿ったものに変わります。
AIの答えが一般論になるのは能力の問題ではなく、渡す情報の問題です。
この点は生成AIの答えが一般論ばかりになる理由でも書きました。

② 検算。金額・期間・条文の整合を確かめさせる。

書類の上に置かれた電卓と眼鏡の寄りの写真

読ませ方の次は、検算です。

契約書には数字がたくさん入ります。
本文の金額と別紙の金額、支払期日と締め日、契約期間と更新や解約予告の日数。
こうした数字どうしの食い違い探しは、人が目で追うと疲れて漏れが出ますが、AIには向いています。

実際のレビューでも、合意していた条件の数字と案文の数字を突き合わせる検算をAIにさせました。
「全部一致しています」で終わることも多いのですが、それが分かること自体に価値があります。
安心して次の論点に進めるからです。

ひとつ、実務で気づいた注意点があります。

PDFの契約書を読ませると、AIが挙げる条番号がずれることがあるのです。
レイアウトの関係で読み取りが崩れ、同じ書類なのに聞くたびに違う条番号を答えてきたことがありました。

そこで筆者は、条番号だけの指摘は信用しないと決めています。
指摘には必ず「条文の見出し」と「条文の逐語の引用」を付けさせて、原文のどこの話かを自分の目で確かめられるようにします。

この一手間で、指摘の確かめにかかる時間がむしろ短くなります。

③ 落とし穴。AIは渡し方に引きずられます。

すりガラス越しにぼんやりと見える人影

もうひとつ、失敗から学んだ落とし穴を書いておきます。

AIに書類を渡すとき、人はつい「これは◯◯の書類です」と説明を添えます。
あるとき筆者は、この添え書きを間違えたまま書類を渡しました。
するとAIは、中身を読めば分かるはずなのに、こちらの説明のほうを信じて、違う書類として要約を返してきたのです。

AIは、指示に含まれる事実の誤りを疑いません。
渡す側の思い込みが、そのまま結果に反映されます。

対策はシンプルです。

  • レビューの最初に「表題・当事者・日付を原文のまま抜き出して」と頼み、何の書類かをAI自身に確認させる
  • 「これは問題ない契約書のはず」のような先入観を与える言葉を添えない

契約書のチェックは、思い込みを排除するために行うものです。
入口で思い込みを渡してしまっては、元も子もありません。

社内規程にも広がる。ただし重い契約は弁護士へ。

朝の光の中の静かなオフィス街

ここまでの使い方は、契約書以外にも広がります。

社内規程どうしの食い違い探し、規程と実際の運用のずれの洗い出し、定型の取引契約の条件確認。
いずれも「論点を決めて読ませ、数字と原文で確かめる」という同じ型で回せます。

筆者の会社でも、研修の申込書を兼ねた業務委託契約書のドラフトづくりにAIを使っています。
たたき台づくりとチェックの往復が速くなるので、1人の会社でも契約書まわりの事務が回ります。

一方で、線引きは忘れないでください。

AIを使った契約書審査のサービスをめぐっては、法務省が弁護士法第72条との関係についての考え方(令和5年8月)を公表しており、何が法律事務にあたるかは個別の事情によるとされています。
自社の契約を自社で下読みする分には遠い話に見えますが、争いがすでに起きている契約や、金額・リスクの大きい契約は、AIの下読みで済ませず弁護士に確認する。
この線を守ることが、AIを安心して使い続ける条件です。

候補出しはAI、確定は人。
この役割分担ができると、契約書のチェックは「誰にも頼めない不安な仕事」から「手順のある仕事」に変わります。

自社の業務のどこからAIに任せられるかを知りたい方は、AI活用診断をお試しください。
契約書まわりを含めた業務全体の任せ方を設計したい場合は、コンサルティングでご相談いただけます。

ShareXFacebook

Tags

  • #契約書
  • #AIレビュー
  • #生成AI
  • #業務効率化
  • #中小企業